- 大阪地方裁判所:第7刑事部合議係
- 罪名:強制性交等未遂

交際相手の家の目の前で
2020年2月26日午後11時ごろ、大阪市都島区の無職の男(45)は酒に酔った状態で、被害女性(32=当時)を見つけた。女性は交際相手とケンカした後、外の空気を吸うために戸外へ出ていた。(現場は都島区から車でも20分はかかる距離にある)
男は女性のストーキングを始め、脇道でしゃがみこんでいた女性を見つけると、「飲みに行こうや」などとナンパ。応じなかったために本件レイプ行為に及んだ。
叫び声を聞いた住民が駆けつけ、未遂に終わったものの、男は住民と取っ組み合いになった末に逃走。住民はスマートフォンで男の逃げる様子を撮影した。
乳房に付着していた唾液から被告人のDNAが検出され、彼も犯行の一部を認めた。
しかし、「セーターをまくりあげてブラジャーをずらした」ことまでは認めたものの、「下着をずらし、陰部に指を挿入してペニスを押し付けた」ことは否認。弁護側も未遂罪の成立は争わないとしたが、実行行為について争うとした。
恐怖の体験談
被害女性が戸外へ出るとまもなく、自転車に乗った男がこちらを見ていることに気づいた。不審に思って歩き始め、左右に曲がってみたりすると男は自転車のままUターンしたため、つけられていると確信した。
そこで、脇道に逸れ、隠れてしゃがんでいると、男は目ざとく彼女を見つけ、自転車から降りた。「飲みに行こうや」「なんで怖がってるん?」「どうしたん大丈夫?」などと声をかけてきたが、「大丈夫です」「彼が待っているので戻らないといけないので結構です」と答えた。しかし、「大丈夫やって」と両手で頬を包み込んできた。
顔を持って立たされ、両手で体を掴まれたたため「やめて!」と叫んだが、男は口をふさぎ、女性の背後に回った。空いた方の手を女性の体に回し、もう一度叫ぶも「うるさい静かにしろ」と脅されパニックになった。体ごと暗い脇道の奥に押されたとき、乱暴されると思った。そのため、ブロック塀の溝を指でつかんだが、抵抗むなしくあおむけに倒された。

物陰に引きずり込まれ、それでも彼女は叫んだのだが「死にたいんか殺すぞ」と男。スカートをまくり上げようとしたため必死に抵抗したが、力が及ばず、スカートをめくった次はパンツをずりおろした。「死にたくないんやったら1回やらせろ」と息ができないほど鼻と口をふさがれ、このとき彼女は抵抗をあきらめたという。

尻の穴に指を入れられ「痛い!」と言うと「処女か? 処女なんか?」と男は興奮し、今度は膣に指を入れた(これも痛かったとの証言)。そして、ペニスを入れてこようとしたが、ペニス自体を見たわけではなく、指と違う感覚から経験上ペニスと認識した(実行行為の争いがこの部分で生じている)。
勃起していなかったために挿入はうまくいかず、口をふさぐのをやめて正常位や側位を試みたが、男はあきらめて乳房を揉んだり舐めたりし、口周りも舐めてきた。

すると、シャッターを上げる音と共に、住民の男性が「なにしとんや!」と助けに入り、男は逃走した。
癒えない傷
女性はもともとメンタルクリニックに通院していたのだが、事件に遭ってから「生きている意味がわからない。死にたい」との思いを強くして、精神科に入院した。
今でも夜に外出できず、後方を自転車が走っていると恐怖を覚えるという。
示談金100万円を渋っていたのに保釈されたと聞いて彼女は怒りを感じた。(のちに、保釈保証金が300万円であったことが明らかになる)
証人尋問の最後、「私から質問してもいいですか?」と彼女は要請した。被害者が直接被告人に質問することは可能なのだが、今回は証人として出廷しているため、手続上それはできない。裁判官が言いづらそうにそれを説明したのだが、ここで検察官が「裁判長、ここは私が引き取ってよろしいでしょうか」と検察側から「なにか言いたいことはありますか?」と尋問するファインプレーがあった。
彼女は「保釈されているのが信じられない。自分はこんなに苦しんでいるのに普通の生活をしているのはどんな神経なんですか」と悲痛に訴えた。
観念した被告人
事件当時、自転車に乗っていたのは酔い冷ましのために徘徊していたためで、被害女性を飲みに誘ったのは「飲みたい半分、ヤりたい半分」。未遂行為については「やったかもしれない」と反省したのか、罪状認否のときとは対照的に弱々しい口調だった。勃起しなかったのはかなり飲んでいたからかと思う、とのことだった。
未遂といえども
被告人は被害者を30mも引きずっており、未遂行為に至るまでなんら中止するそぶりはなかったのであって、相当に悪質であるとして、検察側は懲役5年6月を求刑した。
対して弁護側は、被害者はパニック状態であったため記憶に信憑性がないとし、賠償して謝罪文を書き、反省している上、更生環境も整っているとして執行猶予を求めた。
結果は懲役3年の実刑判決であった。
現場の重要性
犯行時、被害女性は心神喪失のような状態になって「死ぬきっかけをつくってくれてありがとう」と口にした。その流れで、「仰向けにされたとき、立ってはいけないような不思議な感覚になった」と証言していたため、これは女性がパニック状態であったことの証左だとばかり思っていた。ところが現場で謎が解けたのだ。

相当な深さのマンホールがフタの無い状態で現場に存在していたのだ。これに足が嵌まれば「立ってはいけない」感覚になるだろう。
警察用語の現場百遍という言葉を思い出し、この取材以降、私はできるだけ現場に足を運ぶことにした。
性犯罪は未遂でも既遂でも被害者は一様に苦しむ。ビデオリンク方式での証言であっても、衝立で遮蔽した状態での証言であっても、被害者への調書が読み上げられるだけであっても、悲痛な叫びに呆然とする。
この事件は逮捕時から報道されていない。それはマスコミによる情報の選別でなく、警察が情報を漏らさなくなったためだ。法廷にやってきて、やっと明るみに出る性犯罪が多いということだ。私はこれからも法廷を中心に、報道されない被害者の言葉を伝えていきたい。
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