泣きじゃくる実の子の前で、男は元妻を(強制性交等致傷)

強制性交等
  • 大阪地方裁判所:裁判員裁判
  • 罪名:強制性交等致傷

事件の概要

 被害女性は離婚後、同居していた家を引き払うことになったため、その家の片付けをしていた。その最中にガス業者を装った元夫(24)が現場に侵入。目出し帽にサングラス姿で正体を隠した彼は、実の子2人が泣き叫ぶのを意に介さず、腕を抑えるなどの暴行を加えた。
 体力の限界が近づき、抵抗する力を失った元妻は陰茎部を挿入され(強制性交等致傷、全治3日の打撲も負った)、1分ほどで膣内に射精され、元夫はすぐに現場を立ち去った。
 その後、素知らぬ顔で現場に戻ってきた元夫はやってきた警察官の聴取に無関係を装っていたが、30分ほどで自白。緊急逮捕となった。

被告人の経歴

 元夫はバイクの窃盗で少年院送致となり、退院後は保護観察付となったが以後の前科は無い。グレていたために入所中、悪い交友関係を断つために家族全員が引っ越しをしている。
 16才より働き始め、21才のときに後の被害者となる女性と結婚、長男と次男をもうけた。ところが夫婦関係はうまくいかず、離婚。子の親権は元妻へと渡った。

うまくいかなかった夫婦関係(夫の視点)

 結婚当初からお互い、異性とのやり取りが多かったためにケンカが絶えず、妻が暴力を振るうこともあった。育児を巡っても口論が多かったそうだ。妻は隠れて夜の仕事をしていたために、夫は長男が自分の子ではないのではないかと疑いをもっており、次男についても妻の免許合宿後に妊娠が発覚したため、同じように懸念した。
 一度、激しいケンカの際には近隣住民の通報を受け警察沙汰となっていて、そのときに妻から保温弁当箱を投げつけられた夫は頭を縫うケガを負っている。警察に関していえば、夫が勝手に銀行口座から金を引き出したとして、防犯カメラを確認するために妻が警察へ相談したこともあった。
 次男が生まれて数ヶ月経った頃、妻の不倫が発覚。これをきっかけとして、ついに離婚を考えるようになった。

うまくいかなかった夫婦関係(妻の視点)

 結婚後、妻は借金をしたため、返済のために夫が正社員となった。クレジットカードとそのキャッシング枠、そして長男が生まれたために購入した車のローン、合計300万円が膨れ上がっていった。夫の収入がなかなか安定しないために返済は滞り、任意整理をするもその返済も追いつかず、ついには自己破産をしてしまう。
 夫が前述のように勝手に金を使ったり家族カードを使用するなどしたために家計は火の車だった。また、妻の不倫後、夫も不倫をする。
 このような状態の中、離婚を決意した。

うまくいかなかった夫婦関係(第三者の視点)

 証人として共通の知人、そして夫婦の両親が出廷した。
 共通の知人は元夫を擁護する発言が多い印象だった。元夫は元妻の尻に敷かれていた様子であったという。離婚後、元妻が「次男は夫の子だが、長男は違うかも」と言っていたことを、まだ未練のあった彼に告げ口した。父子関係が変わることは考えず、ただただ彼の未練を断ち切るために教えたのだが、逆に悲劇を呼ぶ要因のひとつとなった。また、事件後もこの証人は「この事件は示談で収めるべきだ」と思っている。
 被告人の母は涙声で被害者である元妻に謝罪していた。この事件により、彼女にとっては今後、孫2人に会えなくなることも大きい。被告人の監督責任をまっとうすると誓い、慰謝料などのお金を工面したのもこの母である。

離婚後の元夫婦の関係

 離婚後しばらくは同居しており、性交渉もあった。ところが、別居後、2週間経って早くも元夫は復縁を求める。10~15分おきに電話がかかってくることもあり、元妻はさすがにしつこいと感じたが、数年後元夫が安定していたら復縁してもいいかと考えていたそうだ。しかしながら、彼への好意はもう無かった。
 ところがある日、無断で元夫が保育園に子供2人を迎えに行った。公園で遊んでいると、長男が「(ママが)裸で男の人と寝ている」と泣きながら訴えた。この日、父と帰りたいと言った長男はそのまま夫方へ、次男は元妻が連れて帰った。

そして犯行へ

 元妻への未練、裏切られた気持ち。「苛立ちがつのり、もう逮捕されてもいいやと思った」と被告人質問で元夫は振り返っている。
 事件当日の昼過ぎ、元夫は元妻へ「ガス業者の立ち会いに来てくれ」と、夫婦が同居していた家へ向かうよう電話した。子供を連れてこないようにとも要求したが、曜日感覚の狂っていた元夫はその日が日曜日で、保育園に子供がいないことに気づかなかった。
 仕事終わりに時間のなかった元妻は、子供を連れたまま家に到着。子供をベランダで遊ばせていた。
犯行を決意した元夫は某圧縮陳列で有名な店舗へ赴き、ローションやスティック、さるぐつわ(ゴルフボール大と説明がなされたためギャグボールと思われる)などのアダルトグッズ、目出し帽を購入し、百均で結束バンドを買い、犯行現場となる家へ向かった。服装はガス業者を装うために作業着である。

息子がいるとわかっても止められなかった

 元夫は目出し帽を被り、サングラスをかけた。インターホンを鳴らしたが故障していたのか鳴らず、代わりにノック。元妻がドアスコープを覗くと作業着姿の人が立っていた。首から上は映っていなかったそうだ。彼は「ガス業者です」と声を出したが、彼女は正体に気づけなかった。
 ドアを開けた瞬間、元夫は元妻に襲いかかった。まず口を抑えられ、押し倒された彼女は仰向けに倒れた。「キャー!」と叫び、蹴ったりなどして抵抗するも、逃げようと這いずった際にのしかかられ、うつ伏せに抑え込まれた。髪をつかまれ、背後から首を締め付けられもした。
 犯人の正体はまだわかっていない。殺されると思った彼女は何が目的か聞いたものの返答が無い。異変に気づいた2人の子供は別室で泣き叫んでいた。
 彼女は子供らにトンカチを持ってくるように頼むも、持ってこなかったため、とにかく子供に逃げるようにと言った。子供が逃げたあと、元夫は別室との間のドアを閉めた。
 この隙に彼女は玄関へ逃げようとしたが、手を後ろ手につかまれた。ギャグボールを装着されそうになるのを振り払い、結束バンドからも逃れることができたが、ここで体力の限界に達した。
 元夫がズボンを下ろした瞬間、目的がレイプであると知ったのだが、現れたパンツに元妻は口を開いた。「パパ?」そのパンツは夫婦のときに彼女が購入し、洗っていたものだったのだ。
 元夫は無言のままいわゆるバックの姿勢で陰茎を挿入し、射精した。
 彼が罪悪感に苛まれながら犯行現場に戻った時、彼女は110番通報をしている最中だった。会話をしようとしたが、時間がなく謝れず(被告人の主張)、まもなくやってきた警察官に自白し、緊急逮捕された。

事件後

 元妻は警察病院で検査を受けた。首と腕に痛みがあり、感染症予防の抗生物質とモーニングアフターピルを処方された。
 現在は心療内科に通っており、安定剤(抗不安薬か?)と睡眠導入剤を処方されているほか、夜に歩いているときなどに人が怖いという。精神的には比較的安定してきたものの、薬がないと子供に八つ当たりしてしまうこともあるそうだ。
 また、子供にもトラウマが埋め込まれ、作業着姿の男を見たり、犯行現場付近に行くと泣き出してしまうとのことだ。

求刑、そして判決

 検察側は懲役6年を求刑、弁護側は懲役3年の執行猶予付き判決を求めた。
 結果は、懲役5年だった。
 被告人には稚拙な面が認められるものの、計画性があり、その犯意は強固であった。被害者の処罰感情が強いことにも納得がいき、同様の事例で言えばやや軽い~中程度のものであるが、今回の判決に至った、という理由だ。処罰感情の強さは、被害者がすべての公判に出廷したことからも伺える。別室でなくパーティションで遮蔽されて法廷にいた。
 性犯罪の厳罰化は法改正という形でも為されたが、実際の裁判でも重く処断される。被害女性の精神の回復と、2人のお子さんが健やかに成長することを願ってやまない。

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