エレベーター内でひったくりを試みた男(強制性交等、窃盗未遂)

窃盗
  • 大阪地方裁判所:第2刑事部合議係
  • 罪名:強制性交等、窃盗未遂

ひったくり、そしてレイプという凶行

 2020年5月11日午後1時10分ごろ、大阪市北区茶屋町の雑居ビルのエレベーター内にて、尼崎市のアルバイトの男(32)が女性のショルダーバッグをひったくろうとした。肩ヒモを引っ張る男に女性は「やめてよ!」と抵抗。犯行は未遂に終わった。男は調べに対し、「(エレベーター内なら)人に見られず、女性が相手なら奪えると思った」「エレベーターホールで女性が1人だけ乗るのを待っていた」「出会い喫茶と生活費のためにひったくりを考えた」と供述している。
 どう考えても無茶な犯行だが、これには理由があるため後述する。
 また、同年7月2日午前10時30分~50分の間、同ビルにおいて、出会い系サイトを通じて知り合ったAさん(31=当時)に「サイトを使っていることを友人に言う」と脅し、スマートフォンを取り上げて通報できなくし、非常階段の踊り場で強いて口腔性交をした。
 男は強制わいせつで懲役2年、建造物侵入・窃盗で懲役1年6月など、前科前歴4犯を有している。

狙いはパパ活女子

 好きな人を見つけるために男は出会い系サイトを始めたというが、同年1月にはすでに女性を襲っており、以降4~5回は他のターゲットを次々とレイプしようとしたが、すべて未遂に終わっている(ペニスを出すところまでには及んでいる)。
 男は事件のあったビルに入居している専門学校に通っていたため、非常時以外に人の立ち入らない階段の存在を知っていた。そのため、本件以前にも何度か犯行に使用したという。
 本件では、Aさんの「パパお願いします。体の関係無しで、3万で」という書き込みをサイトで目にした男が、食事デートで3万円という約束で落ち合った。だが、男の所持金は5千円であった。
 女性をひと目見て「やりたい」「なんて可愛い子なんだ」「早く抱きついて陰茎を咥えさせたい」と、好きな人を探すためとかデートだけなどといった当初の目的など忘れ、女性をビルに連れた。エレベーター内では「この上にカフェがあるから」と嘘をついた。現場で確認したが、確かにカフェなど無かった。
 階段の踊り場へ連れ込んだ男は前述の通り女性のスマートフォンを取り上げたのだが、それだけでなく操作もした。弁護人に理由を問われると、「電話番号を知って仲良くなるため」。しかしそんな主張とは裏腹に、男は両手で女性の顔をつかみ、ペニスを押し付けた。
 犯行後、「Aさんの体調が悪そうで心配になった」という男は、犯行現場に戻り、ジュース代とタクシー代を渡して配車を頼み、Aさんを見送った。
 Aさんは「殺されるかと思った。厳しい処罰を」と、恐怖と憤りをあらわにしている。
「相手の女性は出会い系サイトを使っているため、警察に言わないと思った」と男は法廷で語っていた。実際に、本件までの約5件の強制性交等未遂はいずれも警察への相談や通報が無いところからみると、いわゆる〝パパ活〟は弱みに付け込まれる可能性のある危険をはらんでいると言えるだろう。

知的障害の存在

 男は犯行について、前職の退職が早まってイライラし、ヒマになったのが理由と述べた。他にも、好きな人ができないことと、仕事が見つからない焦りを挙げていた。検察官が「焦りやヒマがなぜ犯行につながるのか?」と問いただすと、上記の理由が性欲につながるためだと答えた。
 出廷した男の母親によると、小さいときから発達障害と言われていたらしい。発達の遅れのためイジメにも遭っていた。前刑を受けて、性障害専門医療センターにてカウンセリングを受けていたのだが、医師からは軽度精神遅滞を指摘されていて、療育手帳の取得もすすめられていた。カウンセリングは医師1人に対して患者4人の対面形式が通常であるが、新型コロナウイルス感染症の影響でリモート形式に代わり、被告人自身としては効果が減ったように感じたという。
 母親は同年2月(すでに1人目の被害者が出た後)に出会い系サイトの使用に気づき、やめるように言っていた。また、ホルモン治療という方法もあると医師から紹介され、被告人も前向きであったが、その矢先に本件へと至った。母親は必死に監督していたものの、「(息子は)ストレスをうまく解消できなかったのではないか」と悔やんでいた。
 裁判所からの「更生できますか?」という問いに、男は「できます」と答えた。

知的障害は酌量減軽されない

 検察側は、卑劣で悪質であり、スマートフォンを奪って通報できなくさせ、口腔性交を強要する手慣れた犯行である。Aさんは梅田に来るたびに犯行を思い出して体調を崩すようになった。ひったくりに関しても被害女性は「再度被害に遭うのではないか」と日常生活に支障をきたしている。前科2犯前歴2回はいずれも女性を狙ったもので、刑事施設への収容が必要であるとして、懲役6年6月を求刑した。
 弁護側は、素直に供述したため窃盗未遂(ひったくりの件)が発覚した。反省の態度を示しており、再犯防止の方策についても熟慮しているとして、寛大な判決を求めた。
 判決は、懲役6年(未決勾留日数中60日を算入)であった。
 意図的かつ巧妙で強固な犯意があり、窃盗未遂についても手慣れた犯行である。出所後1年足らずでの犯行は規範意識に欠けていて、事情を考慮しても相応の刑事責任を負わなければならず、今回の量刑に至った。という理由であった。
 裁判長は説諭として、「これが最後のチャンスだと思ってほしい」と語りかけた。

知的障害者による性犯罪への疑問

 知的障害者による性犯罪は珍しくない。健常者によるものと同様に、ほとんどが同種前科を抱えている。(もっとも、性犯罪を繰り返してしまう者が健常者とは言いがたいが)そして、実刑を受けようが受けまいが、ほとんどが本人の更生意欲に依存しており、結局は野放しの状態となっている。保護観察などまずつかない。
 ここまで触れないでおいたが、エレベーター内でのひったくりや、仲良くなりたい女性に乱暴を働いたこと、犯行後にタクシーで見送ることなどは、明らかに障害の影響が認められると思う。それでも酌量はされない。障害のレベルに差はあれど、他の犯罪では知的障害を理由として大幅に減軽されたケースを見てきた。
 近年、障害者の性被害がようやく報道されるようになったが、加害者となるケースはもっと議論されるべきであろう。保護観察官は全国に1000人足らず。実際に支援にあたる保護司は無償のボランティア。行政は限界の状態にある。
 そこで、今回取り上げられた性障害専門医療センターのようなNPO法人による民間の支援が不可欠なのであるが、強制力が無い。性犯罪者は皆一様に「カウンセリングを受ける」と口にするが、途中で辞めてしまうか、そもそも受けずに再犯へ至ることが多い。
 言葉は悪いが、国の怠慢で性犯罪の被害者が増え続けていることは強く非難されるべきだ。GPSなど効果は薄いだろう。コンビニで痴漢する輩もいるのだから。

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