〝ノーマスク男〟こと奥野淳也氏へのインタビュー詳報①

公務執行妨害

 2020年9月、旅客機内でマスクの着用を拒否し、旅客機に緊急着陸を余儀なくさせたとして威力業務妨害や航空法違反などの罪に問われた奥野淳也氏(35)。21年4月にも千葉県館山市の飲食店でマスクの着用を拒否し、駆けつけた警察官ともみ合いになり、公務執行妨害の罪にも問われている。
 22年1月、奥野氏は私の単独インタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染対策に対する日本社会への違和感、ワクチン接種の是非、裁判所の対応などを語った。

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奥野淳也氏(大阪地裁正門前にて、撮影=櫛麻有)

 東スポに掲載された私のコメントもご覧くださると幸いです。

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 私のアポに快く応えた奥野氏は、一見して危険な人物には思えない。ノーマスクであること以外には受け答えも自然で、インタビューは終始和やかな雰囲気で進んだ。東大で法学や政治学を学び、スウェーデンを中心とした比較政治学を専門としていて、事件前まで大学の教員として勤務していた。そんな彼の主張を紹介する。

新型コロナウイルス感染対策と日本社会

 周知の通り、日本では新型コロナウイルスへの感染対策として、マスクの着用は義務づけられていない。あくまで〝呼びかけ〟にとどまるのだが、あたかも義務化されているかのようになっている日本の現状に、奥野氏は違和感を覚えている。
 法制化され、マスク未着用により罰金が科されるイギリスやフランスでは着用率が20%というデータもあるが、逆に日本では「インフォーマルなマナーの方がバインディング(=拘束する)で興味深い」(丸括弧内は筆者注)と奥野氏は言う。

ノーマスクへの裁判所の対応

 千葉県での事件で逮捕勾留された奥野氏は、裁判所へ勾留理由の開示を求めた。勾留理由開示は公開の法廷で執り行われ、一般の人も傍聴できる。裁判官から「裁判所としてマスクの着用をお願いしている。 ご協力頂けないか?」との要請があったが、奥野氏は拒否。裁判所でのマスク着用要請は「裁判所規則に基づくのか、裁判官の訴訟指揮権か?」と法的位置づけの釈明を求めた。続いて、奥野氏は法廷内の感染対策に合理性はあるのか、と求釈明を行った(求釈明とは、刑事訴訟規則208条を根拠に、質問や証拠の提出を求めること)。
 結果として、特別な対応は取られなかったが、「マスク着用に協力いただけないことを遺憾に思う」と裁判官は述べた。ノーマスクでの出廷をめぐり、その位置づけが議論され、被告人の「マスクは任意」であるのが確認されたのは日本でこれが初めてであったと奥野氏は語る。
 大阪での公判前整理手続きでは、裁判所からマスク着用の可否につき、事前に問い合わせがあった。 奥野氏はマスクを法廷で着用しない旨の回答をして、 「マスク未着用者に対する誤った印象を社会に植えつけないように過大な防護策はとらず、あくまで通常の対応を」と意見書も併せて提出した。アクリル板で四方を囲うなどすれば、「危ない人である」との心証を抱き、予断排除の原則に反するからだ。
 大阪地裁では、遺憾の意こそ表明されなかったものの、前日の体温測定と健康状態の報告を他の人と同様に求められた。しかし、「あくまで個人的な事柄なので応じない」という姿勢を貫いた。

ウイルス自体への考えとワクチンなどの対策について

 奥野氏はいわゆる〝反コロナ〟ではなく、ウイルスの存在や実態は専門外のことでわからない、という考えだ。その上で、「個々人のコロナに対する考え方に合わせればいいのでは」と主張する。ワクチンも同様に、リスクとベネフィット(利益)を考慮して個々が接種を判断すべきという考えだ。
 また、ワクチンが通常の手続きを踏まず緊急承認となったことについて、安全性審査のあり方などが将来に禍根を残すのでは、と危惧している。手続き保障は民主主義の根幹であり、麻原彰晃も三審制の例外ではなかった。実態よりも手続きを重視すべきで、もっと手続きに即した議論を尽くしてほしいと彼は求めている。
 加えて、ワクチンパスポートによって接種の有無が可視化されることで社会が分断され、人々が差別に加担することになると指摘している。
 奥野氏はこう語る。
「なにかひとつの正しい感染対策を求めて過剰に反応すれば、雪だるま式に対策が大きなものになってしまう。感染対策を社会全体の防衛としてではなく個人化したものにすべき。社会全体が理性を失いつつあることに危惧を覚えている」
 法廷での過大な防護策、という点で私の脳裏をよぎったのは、勾留中の被告人が必ず手錠と腰縄を着けて入廷する問題だ。安全上の問題もあるだろうが、こと裁判員裁判では一般の市民が裁判に参加する。日弁連が強く主張しているように、判決前から「罪人である」との印象を抱きかねない。現に逮捕時の映像には手錠が映らないよう配慮されている。
 奥野氏はたびたび同調圧力の恐ろしさを口にした。たしかに、歴史を振り返れば同調圧力によって誤った行動や判断が繰り返されてきている。
 だが、以上の問題を感染症対策と同列に考えてよいかについては意見が分かれるところであろう。今後も取材を続けて議論を深めていきたい。

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