「よろこんで死んでやる」「この国は終わり」ヤマト集配所殺傷事件(筧真一)(殺人)

公務執行妨害
  • 神戸地方裁判所:第4刑事部、裁判員裁判
  • 罪名:殺人、殺人未遂、公務執行妨害、器物損壊、建造物損壊、銃刀法違反

早朝の神戸北鈴蘭台センターを襲った狂気

 2020年10月6日午前4時13分頃、筧(かけい)真一(47)は前日まで勤務していたヤマト運輸の集配所にて、パート社員女性(47=当時)を刺殺した。刃渡り21.3cmの包丁で17回も女性を突き刺し、中には腹部を貫通する傷もあった。犯行後に刃体と柄が分離していることから、衝撃の強さがわかる。死因は急性失血死であった。
 その後、出勤してきた従業員の男性(60=同)にもう1本の包丁で襲いかかったが、もみ合いの末に筧は包丁を取り落とした。全治20日間のケガを負った男性を筧は追いかけ回すが、その際に男性は敷地外へ包丁を投げ捨てることができた。
 逃げることに成功した男性が110番通報をしている間、筧は乗ってきた車で集配所の至る所を破壊して回る。4時22分までにフォークリフトやトラックなど合計14台(被害額594万円)に体当たりをし、事務所の壁面も破壊した。(被害額126万円。器物損壊、建造物損壊)
 この様子は被告人のドライブレコーダーに記録されており、法廷で公開された。亡くなって横たわっている女性が映り込んだ部分には修正がかけられていた。
 集配所から逃走する筧の車と、通報を受けて急行していたミニパトカーがすれ違ったのだが、筧はわざわざUターンしてパトカーの側面に衝突。被害額20万円の損傷を加えた。(器物損壊、公務執行妨害)
 結果として、1人死亡1人軽傷、被害総額約740万円の大惨事となった。

愛情の裏返し

 被害女性は既婚者であったが、筧は恋愛感情を抱いていた。荷物の取り扱いについて、筧の乱雑さに会社は手を焼いており、かねてより筧と折り合いの悪かった被害男性が筧と口論になったことが事件のきっかけとなった。
 女性は口論を止めに入ったのだが、筧に振り払われて全治3日の打撲を負った。会社は診断書を作成した後、警察に被害届を出すよう促したのだが、女性は難色を示した。警察署に相談へ行ったものの、結局は届けを出さなかった。筧をかばっていたのである。
 しかし、そうとは知らない筧は会社から示された自主退職の願書に激昂。解雇通知と思い込んだまま署名し、女性と男性が自分を罠に陥れたと勘違いした。
 筧はホームセンターで包丁2本を購入。全国に知ってもらおうと、レポート用紙に女性への思いや犯行を決意した動機を書き込んだ。文章にはあまりに露骨で卑猥な表現もあり、法廷で読み上げられる間、パーティションの向こうでそれを聞いている女性の夫の心情を思うと胸が苦しくなった。

筧のとんでもない態度

 筧は証言台の前でも背もたれにだらりと座り、腕を組んで片足のくるぶしは太ももの上にあった。検察官に怒鳴り、被告人質問では「(出所したら負傷した男性を)殺す」とまで言い切り、あまりの不遜さに女性の夫が声を荒げてしまう場面もあった。
 刑務官は通常2人、多くても3人だが、筧の場合は4人が四方を取り囲み、臨戦態勢であった。傍聴席最前列の私は、判決の主文言い渡しの際に思わず身構えてしまった。

首をかしげる判決

 主な争点は動機であり、検察側は会社への怨恨の他に、女性への愛情が裏返ってしまったことを指摘。弁護側は不当解雇への恨みのみであると主張した。筧は途中で供述を翻し、恋愛感情は関係ないと言い出したのだ。
 判決は、懲役27年(未決勾留日数中320日を算入、求刑は懲役28年)であった。他に包丁2本が没収された。
 裁判所は、解雇の経緯は不適切でクビと思うのはやむを得ないとしながらも、結果には飛躍が過ぎており、自己中心的で酌むべき点は小さいとした。
 理由が読み上げられる中、筧は自身の弁護人に向かって人差し指と中指で首を切るジェスチャーをしていた。
「自分の罪を受け止めてください」と裁判長に諭された筧は、「さっぱりわからない」と両手を広げ、ボソボソと「死刑にしてくれ」「よろこんで死んでやる」などと語り始めた。傍聴席からは「マイク近づけや!聞こえへんぞ!」「死ねやボケェ!!」と怒号が飛び交った。
 なおも筧はなにやらつぶやいていたのだが、ほとんど聞き取れない。「この国は終わり」「5月7日」「真田幸村」といったワードが飛び出したが、そういえば被告人質問で自分のことを神だと思っている節があったと思い出した。
 恐ろしい結果に加え、反省も無く、再犯まで匂わせているこの男に有期懲役はどうかと思った。無期でも30年ほどで仮釈放となり得る現状なのだから、実質26年後に出所させることの是非が問われるだろう。

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