虐待死が疑われる今西貴大は本当にクロなのか?(傷害致死、強制わいせつ致傷)

傷害致死
  • 大阪地方裁判所:第9刑事部合議係、裁判員裁判
  • 罪名:傷害致死、強制わいせつ致傷、傷害

(※3月25日、判決を追記)

事件の概要

 東淀川区の電気工務店経営者、今西貴大(33、当時28)は2017年12月、希愛ちゃん(2=当時)に暴行し、左脛骨骨幹部骨折を負わせた。(傷害)
 また、同月14~16日に肛門へ異物を挿入した結果、会陰方向への肛門裂傷も負わせた。(強制わいせつ致傷)
 同月16日午後8時ごろ、頭部へ暴行を加え急性硬膜下血腫、そして脳挫傷に陥り、大阪市立総合医療センターへ搬送された。心肺停止状態であったため、気管挿管とアドレナリン投与を実施、しかし意識は戻らないまま同月23日に死亡した。(傷害致死)

事件に至るまで

 被告人は前妻との間に子供がおり、同じく妻にも元夫がいて、その間に子供がいた。後者の子が亡くなった希愛ちゃんである。また、希愛ちゃんが亡くなった2ヶ月後に実子の妊娠が判明し、誕生している。(※すでに離婚が成立しているため実子は正しくは前妻との子となるが、混乱を避けるために以降も「元妻」などの表記はしないこととする)
 愛知県で知り合った二人はすぐに交際を初め、希愛ちゃんとも対面した。会ったその日に被告人の腕の中で寝ている写真が残されている。
 妻の両親が同じ県内の新居に移ってからは、クーラーの取り付けを行った縁もあって被告人は妻の実家によく出入りするようになり、希愛ちゃんと3人で遊びに行ったりもした。その時の写真が法廷で示された。
 ところが妻とその母が喧嘩をし(被告人の証言に、無職のまま毎日パチンコに行っていた、というのがあったためそれが原因か?)、大阪へ引っ越し、結婚して希愛ちゃんを養子とした。これが17年9月のことである。

事件当日のこと

 3件それぞれについての詳細だが、まず17年11月14日に希愛ちゃんは左脚を骨折。痛みを訴えた希愛ちゃんを、被告人は抱きかかえて帰宅した。後述するが、原因を突き止めるまで病院を転々としている。骨折の判明には同月24日までかかった。
 そして同年12月14日~16日に、異物を挿入して肛門裂傷。
 同月16日午後8時ごろ、被告人から「息をしてない」との119番を受けた受報者が、呼吸の確認と心臓マッサージの方法を伝え、被告人が実施したところ、喉から何かが出てきたため、受報者は背中を叩くように指示した。ほどなくして到着した隊員に被告人は「早く来て」と言い、駆けつけた隊員は希愛ちゃんの全身にチアノーゼが出現していることを確認した。体全体が青紫色になっていたということである。嘔吐物は米粒で、吸引を行ったものの何も出てこなかった。搬送中、事情を聞かれた被告人は「食後に遊んでいたら、うーうーと言い出した」と答えている。(受報者・救急隊員とのやり取りは録音データが法廷で流された)

3つの争点

 本件は3つの罪いずれも犯人性と事件性を争っている。つまり検察側と弁護側の主張が真っ向から対立しているため、公訴事実ごとに整理したい。

左脛骨骨幹部骨折という傷害の罪

 この骨折については事故によっては生じ得ないもの、と検察側は主張している。ところが弁護側は遊具にぶつかったなどの外力によって生じたと主張し、その上、希愛ちゃんが脚の痛みを訴えるため連日病院を探し回り、4件目でMRIを受けた結果やっと原因が判明した事実を挙げ、この骨折をもって虐待を疑うのは疑わしいと主張した。たしかに虐待の結果ならそれをわざわざ露顕するようなことはしない可能性もある。また、連れていた飼い犬(チワックス)がまとわりついた結果である場合もありえるとした。
 この件については2名の整形外科医が証言した。一人は何者かが無理に膝を伸ばした可能性が高く、2才児が単独で起こすとは考えられないが、断定できないとした。もう一人は滑り台や遊具からの飛び降りによっても生じ、受傷後、すぐに泣き叫ぶとは限らないとした。

異物を挿入して肛門裂傷を生じせしめたという強制わいせつ致傷

 これについては、医師の証言によって異物挿入以外に無いという立証があった。対して弁護側は、自然分娩の際にできた傷の可能性を指摘。また、希愛ちゃんは皮膚が弱く、排便時に血まみれになったことがあるという母親の証言から、いつかの排便時についた傷であると主張している。
 傷害の程度であるが、医療センターの医師が確認したところ、2~3日前にできたと思われる瘢痕(はんこん)状のかさぶたがあり、これを元に捜査側は犯行推定日時とした。また、会陰方向への傷であるため自然分娩によるものとは考えにくいとの見方もある。
 これについては排便障害の専門家3人が証言した。会陰部の7~8割、1cm前後の裂傷を生じさせる排便は痛みで止まるため、先の尖っていない異物を素早く挿入したものであるという主張がある一方、便秘が排便痛を上回る場合は排便による傷の可能性もあるとの指摘があった。また、異物を挿入したのであれば複数の傷ができるはずであるとの証言もある。

頭部への暴行による傷害致死

 検察側は被告人の暴行によるものと主張。しかし弁護側は、死因が心筋炎ではないかと主張。また希愛ちゃんは先天性のQT延長が確認されていて、これが心肺停止につながったのではないかとみている。QT延長は失神や突然死を引き起こす心臓の疾患である。
(※医師の議論がこの裁判で最も時間を要した事項であるため、折を見て追記する)

今西貴大の主張

 妻との交際当初はかなりの頻度で会っていたため、希愛ちゃんの面倒を一体誰が見ているのかと思ったという。
 クーラーの取り付けの仕事は20歳から初めたといい、その後に独立して法人化した。
 従業員を10人抱えていたが資金繰りが悪化。法人として借り入れを1500万円、個人で500万円(事業資金として)行った。この借り入れは税理士と相談し、信用協会の審査も通ったため、返済できると思ったという。ところが月70万円の返済は滞ることとなる。
 週6日朝6時に出勤し、帰宅は夜7~8時。妻のネイルが長く、ストーンも乗せていて危ないため、風呂を入れるのは被告人の役割だった。
 寝かしつけのときに妻がスマホで音を出すため、パチンコに行かせたこともあった。通常、パチンコは平日だと2時間ほど、休日は夜まで帰らないこともあったという。
 育児にストレスは無かった。
 搬送当日、食後に布団で希愛ちゃんと一緒にゴロゴロしていたところ、「うっ」と声を出して希愛ちゃんは目の焦点が合わなくなり、嘔吐。具合が悪いためパチンコに行っていた妻に電話したところ、妻は不機嫌そうな様子だったという。

法廷での妻の奇妙な態度

 ロングの髪を紫色に染めた妻(22=事件当時、夫妻は5歳差)は、どうも実の娘を失ったとは思えない態度であった。
 この妻、家賃抜き30万円以上の生活費を被告人から与えられ、専業主婦として週2~3回は娘を置いてパチンコに行っていたのだが、検察側の質問には普通に答えていたものの(それでも法廷外で「あの検察官うざい」などと言うのを聞いた)、弁護側の質問にはわざと食い気味に答えたりキレ気味に返したりと態度が悪く、裁判長が「体調が悪ければ言ってください」と遠回しに諭した。娘がいたずらした話を楽しそうに話したり(この場面はどうもおかしく、普通は悲しむのではと思った)、虐待があったのだとすれば、その一端は彼女にあるのではないかと思わざるを得なかった。
 証人としての発言を紹介する。
 まず、検察側からの質問で、夫婦は円満であり、家事も分担していたと語った。被告人がパチンコに行くこともあり、元請業者から請負金が滞って収入が減り、夫を怒ったことがあるという。(それは下請けの夫になんの非があるのかよくわからないが)
 希愛ちゃんは手のかからないおとなしい子であったが、夜になかなか寝付かず朝8時まで起きていたこともあった。事件には心当たりが無く、「今西にはウチの知らない一面があったのかなと」と話していた。被告人の前妻から金銭の要求があったことや、前述した会社の借金についてなにも知らされていなかった。
 一方、弁護側は当初の検面調書(検察官に対する供述を録取したもの)が今の証言と大きく食い違っていることを追求した。すると、検事の個人名を挙げ、その人物の聞き方がいやらしく自分のことを犯人扱いしていたため、適当に答えたのだと弁明した。その検事は公判部にいたことがあるので私は知っているのだが、特に悪印象など無い。
 当初は夫を信じて(つまり虐待を疑わず)検察庁では依頼した弁護士から言われたとおりに調書を取ってもらったという。
 弁護人は続いてパチンコ関連の話に入り、週2~3回のパチンコの間は夫が子守をしていたこと、骨折の前後でパチンコの頻度が減ったかどうかは覚えていないことなどを答え、どんどん食い気味に、またキレ気味になったため、前述のように裁判長は「大丈夫ですか」と声をかけた。続いて、皮膚科の話になったのだが、診断名を覚えておらず、証拠開示のあった処方薬(10本ほどの軟膏)の写真を示して、「どれが希愛ちゃんの薬ですか」と尋ねられたのだが、1つを除いてわからないと回答した。多便であり、排便時に肛門が真っ赤になることもあったという。
 弁護人に「なんの関係があるんですか?」と食ってかかり、裁判長が「関係があるかどうかは裁判所が判断しますからね」とたしなめる一幕もあった。本当に無関係な質問ならば検察官が異議を唱える。裁判員裁判の場合はイメージが特に重要だ。その証左として、彼女には裁判員から多くの質問がなされ、その内容もやや非難の色を帯びたものであった。あまりこのような裁判員裁判は見たことがない。

疑惑の判決

 結果は、懲役12年(未決勾留日数600日を算入)であった。脚を骨折させたとした傷害については無罪で、強制わいせつ致傷と傷害致死が認定された。ひとつずつ見ていこうと思う。

左脛骨骨幹部骨折について

 2名の整形外科医の証言により、骨折が虐待によるものとは断定できないとした。また、マンションはペット禁止であり、犬を連れ出すときはいつも服の中に隠していたのだが、マンション設置の防犯カメラには希愛ちゃんを抱えて外出する被告人が映っており、犬も一緒に抱えているというのは不自然であるとして公園についての被告人の供述は信用できないとした。しかし、公園に行った事自体は認定し、うしろめたさから犬の話を持ち出したと考えられ、これをもって有罪の根拠にはできないとして無罪となった。

肛門裂傷について

 排便によるものか否かが争点となったわけであるが、押収されたおむつに硬い便が無かったこと、便秘ではなかったという妻の証言から、排便によるものではないとした。
 また、生活状況から犯行は夫妻にのみ可能で、実母である妻が行うはずがないため、被告人による強制わいせつ致傷を認定した。(ここには疑問を呈する余地がある)

傷害致死について

 論拠の中心となったのは脳神経外科の一定の権威がある先生で、びまん性脳損傷を指摘。交通外傷ほどの強い外力が加わったことによるものとした。この「外力」であるが、判決文にも「何らかの方法」によって頭蓋内損傷が生じたとしか触れられておらず、室内でどのようにしてこの外力を加えることができるのかが判然としなかった。
 弁護側の法医学者の意見は、直接解剖していないために採用されず、他の脳神経外科医の意見も反論になっていないとして不採用。4人の医師が心筋炎を否定し、QT延長や嘔吐が先行しての窒息などが原因との主張も跳ねられ、何者かが被害児童に強い暴行を加え、一緒にいたのは被告人だけであることから傷害致死を認定した。転落などの事故の可能性も否定した。
 以上の理由により、2件を有罪とした。量刑の理由であるが、同種の虐待では傷害致死が7年まで、強制わいせつ致傷が11年まで分布しているのを勘案し、傷害致死については態様が明らかでないが酌むべき事情はなく、強制わいせつ致傷は侵襲の度合いが高いこと、被告人は不合理な説明に終始し、反省がみられないことから主文の刑となった。
「希愛が亡くなった本当の理由を知りたい」と述べた今西被告人の言葉を引用した上で、「我々が全力で考え抜いて出した結論です」と裁判長は締めくくった。
 新型コロナウイルスの影響で公判が延期し、13人もの医師の激論を整理するなど、裁判員の方々にはかなり負担の重い裁判であったと思う。

事件は閉廷後に起こった

 閉廷後、妻は検察官後方の席から傍聴席へ移動したかと思うと、座っていた今西の母の目の前に詰め寄り、「お前の息子だろ!あやまれ!」と叫んで裁判長に「ここはそういう場所じゃありません」と制止された。妻の母から「あやまれ!」と罵声を浴びせられた今西本人はまだ法廷にいた。
 私はこれまで、幾度となく遺族が罵声を浴びせる法廷を見てきた。交通事故から殺人事件まで、多種多様だ。だが、最低限の礼節は当然ながら皆守る。
 言うまでもなく、被告人の母親に落ち度などない。役割分担のように親子で一方の親子を罵倒するなど亡くなった希愛ちゃんが望んだ光景だろうか?
 判決の瞬間、顔を両手で覆った妻はすぐ前へ向き直った。涙など流しておらず、潤んでさえいない眼がそこにあった。悲劇のヒロインなどと陳腐な言葉は使わないが、彼女はこの裁判を勝ち負けかなにかと勘違いしてはいまいか。
 今西がシロとまでは言わない。だが、希愛ちゃんの死は家庭環境、言い換えるなら構造的な問題が招いたと思わざるを得ない。

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