心優しい少年の心に付け込んだ愚劣な犯行(強制わいせつ、児童ポルノ禁止法)

強制わいせつ
  • 大阪地方裁判所:第3刑事部1係
  • 罪名:強制わいせつ、児童買春・児童ポルノ禁止法

事件の概要

 被告人の男が当時12才、小学6年生であった男の子を駅構内の多目的トイレに誘い入れ、ズボンを突然下ろして臀部を触ったり抱きつくなどの行為を行い(強制わいせつ)、その様子を携帯電話で撮影した事件(児童ポルノの製造)。

被告の経歴

 勾留中の被告の姿に私は唖然とした。あえて言葉を選ばずに表すと「よぼよぼのじいさん」。人定質問に対し昭和46年生まれであると答えたため、年の頃49才! 嘘だと信じたかったほどだ。なにせ70代に見えたから。髪はかろうじて黒いものの、ほとんど禿げ上がっている。
 しかし声を大にしてバッシングしていいかというとそうでもない。乙号証(被告人のプロフィールなど)について検察官が読み上げた内容では養護学校(現在の特別支援学校)を卒業していると述べられており、弁護側も被告人が療育手帳を所持している旨発言した。
 よって被告人には知的障害があるのだ。その程度はおそらく軽いものの、後に詳述する混乱した公判内容を招く。

事件の詳細

 被告人と男の子とは初対面だった。「かわいかったら誰でもよかった」と男は供述している。駅構内にて男の子を見かけた被告人はいたずらをしたいと考え、多目的トイレから男の子に声をかけた。困っているのかな、と思った男の子は親切心で招きに応じた。
 ところがトイレに入ると、被告人は男の子に対し、服を脱ぐよう指示。いきなり密室で大人に命令され、男の子はなすすべなく上衣を脱いだ。すると被告人は突然男の子のパンツもずりおろし、尻を触り始めた。そして、後で楽しもうと思いつき、携帯電話でその様子を動画撮影した。

前科前歴は無いものの

 被告人は以前から4~5歳の子供に抱きついたり、電車内で女子高生を撮影したりと、立件されてもおかしくない行動を繰り返している。だが被告人の事情を鑑みてか、警察は注意するにとどまっていた。「檻に入っちゃうかもよ」と諭され、怖い思いをしたと被告人は主張していた。怖かったのは被害に遭った方々だろうに……

噛み合わない答え

 したらダメだと思いつつも抑えられない、というのが犯行動機だ。そこで、弁護人・検察官・裁判長が何度も角度を変えて、「被害者がどういった気持ちになったか」を被告人に問いかけた。なぜダメかを認識しているか否かの質問である。
 しかし返す答えはずっと、「申し訳なく思っています」という自分の気持ちだった。裁判長はその都度、質問をよく聞いてください、今のはこういった質問なのですよ、と助言するも、答えは変わらず……はたして裁判の行方は。

キレた裁判長

「被害に遭った子は、大人だったりトイレだったりが怖くなるかもしれないんですよ。今後もあなたの犯した行動で苦しみ続けるんですよ。そういった被害者の気持ちがわかっているんですか!!」
 初めて裁判長が激高する場面に遭遇しました。裁判官がこういったイレギュラーな対応をすることも人によってはあります。
「申し訳ありません……」被告人はあいも変わらずそう答えた。

求刑、そして判決

 謝罪の手紙は少年から拒絶されており、よって被害者の処罰感情は大きいものと思われ、検察側は懲役2年6ヶ月の実刑を求めた。これに対し、弁護側は執行猶予を求めた。
 判決は、懲役2年6ヶ月(未決勾留日数20日を算入)執行猶予4年であった。
 判決の日は落ち着いた口調で、裁判長は説諭として、「服役するかどうかの瀬戸際にいることを忘れないでほしい」と述べ、閉廷した。

残った疑問

 今回の事件、なぜ被告人の責任能力について一切争わなかったのかが不思議でならない。知的障害者については心神耗弱が認められたケースもあるのだ。
 また、公判中の一喝は障害者虐待といえなくもないのではないか……と私は思料する。もっともこれは、私自身も一介の障害者である故の肩入れではあるが。
 乙号証の内容を見ることができないので知的障害の程度についてはわからない。おそらくは公判前整理手続において健常者と同じ扱いをする合意が為されたのだろうか。
 いずれにせよ、ダメなことはダメと被告人が反省できることが第一だ。

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