- 大阪地方裁判所:第14刑事部合議係
- 罪名:殺人
事件の概要
2020年1月19日の朝、大阪市平野区の無職、民谷瞳(37)が三女の柚希ちゃん(生後7ヶ月=当時)をマンションの11階から投げ落として殺害した事件。柚希ちゃんは脳挫滅によって亡くなった。
八方手を尽くした瞳さん
民谷は中程度の知的障害を抱えながら、夫と、その間の3人の子供を育てて暮らしていた。しかし、4人目の子供が誕生するにあたり、ストレスから不眠になり、行政に相談するも取り合ってもらえなかった。子供を施設に預けたいとも考えたが、今度は家族から反対された。4人の子供の内2人には障害があったため、育児には想像だにしない負担がのしかかっていたであろう。
眠れぬ夜が明けて
民谷は寝られないまま犯行当日の朝を迎えた。三女を抱えてマンションの4~5階の間の踊り場から投げ落とすも、植え込みに落下したため殺害を遂げなかった。彼女はこのとき、死ななくて安心したと語っている。この矛盾を裁判所は、被告人の精神状態を推し量る材料にしたものと考えられる。
地面の三女を拾い上げた民谷は、今度は11階を目指した。そして地面からの高さ25mの地点から再び三女を投げ落とした。
結果
判決は、懲役3年保護観察付き執行猶予5年(未決勾留日数210日を算入)となった。本件のように殺人といえど実刑に処すにはあまりにも酷なケースでは、執行猶予が付けられる上限である懲役3年に減刑し、バランスを取るため執行猶予を最長である5年にする。近年では介護殺人で多い例だと体感ながら思う。
理由としてまず犯行時の精神状態だが、1度生還して安心したことから善悪の区別はできており、上階に向かったことから自分のコントロールはできていたと判断(つまり殺意を認定)。
しかし犯行時は知的障害に加えて適応障害にあり、判断能力が低下していて心神耗弱であったとした。また情状面として、行政と家族から適切なサポートが得られなかったことが挙げられた。被告人には前科もなく、同種事案の中では軽い部類であるため、今回の判決に至った。
本当の加害者は誰なのか?
似たような事案を私は取材したことがある。金城ゆり被告の事件だ。
このときも、知的障害のある母の元にたくさんの子供がいて、同じく障害のある被告が育児のストレスで、最も重い障害のある雷斗くんを死に至らしめた。
私は今回の事案も、無計画に子を殖やす夫こそが真の加害者であると思う。障害年金の子の加算を狙っているのか、市の児童手当を狙っているのか、はたまた性欲を満たしているだけなのかは判然としないが、子を育てる覚悟があるとは到底思えない。
この事件、裁判員裁判にも関わらず公判が3回しかなかったため、「特に争いのない暴力団関係の抗争かなにか」だと思ってしまい、他の裁判を優先してしまったため判決しか聴けなかった。ところが知り合いの記者から、「被告人の知的障害について争いのない赤ちゃん殺し」と聞いて、しまったと頭を抱え、しかも裁判員の1人が新型コロナウイルスに感染して公判が延期するというハプニングにも見舞われた。
記者クラブに属していない私は、重要な事件を嗅ぎつける能力を地道に身に着けねばと思った。
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