- 大阪地方裁判所:第2刑事部1係
- 罪名:麻薬及び向精神薬取締法違反

(この事件はカンテレで取り上げられています。闇露店の仕組みがわかりやすいです)
受け渡しは住宅街の一角で
2022年8月18日、大阪市東住吉区にあるA薬局付近の路上にて、西成区の無職・水内雅士(51)が処方されたばかりの向精神薬約120錠(エチゾラム1mg×90、ゾルピデム10mg×30)を密売人に手渡した。麻薬及び向精神薬取締法では、向精神薬の譲り渡しが禁止されている。営利目的の場合は「5年以下の懲役、または情状により5年以下の懲役及び100万円以下の罰金」とかなり重い罰則が設けられている。

拘置所の車イスに座って初公判に現れた水内は、認否を問われると、「自分が悪いことをやったのはわかっています」と起訴内容を認めた。
医療扶助の仕組み
この事件、生活保護バッシングにつながりはしないかと、書き方をしばらく考え込んでいた。多くの生活保護受給者は制度を正しく利用しているのに、一部の者の不正で大々的に批判される構図は昔から変わっていない。だが、この事件を通して見えてきたのはむしろ、行政の怠慢だ。
生活保護の受給者は原則として健康保険に加入できない。ではどうやって通院するのかというと、「医療券」を役所に発行してもらい、それを病院の窓口で渡せば自己負担額が0円になる仕組みだ。
この制度を悪用し、複数の病院や薬局を渡り歩いていたのが水内だ。
半年で約7500錠
水内は30代のときに脳出血で倒れて障害が残って以来、生活保護を受給して生活していた。21年頃から医療扶助を悪用して複数の病院を回り、処方された薬を密売人に売り渡していた。知人や固定客に西成区の路上で販売もしていたという。22年1月~6月の間だけで7435錠もの処方を受けていた。
A薬局に水内は多いときで月4回訪れていて、薬剤師には先発品を強く希望し、錠剤のシートをカットしないようにと注文をつけていた。愛好家の中にはジェネリック医薬品を嫌う者がいるため、販売のためにこのような要望をしていたと思われる。
西成の闇露店では「ゾルピデム1シート10錠2000円」というように相場が決まっているという。客の一人は「2年前から、エチゾラムやフルニトラゼパムを1シート10錠500円で購入していた」と警察の聴取に答えている。ゾルピデムやフルニトラゼパムは睡眠導入剤で、近年は〝レイプドラッグ〟として性犯罪に使われることも珍しくない。法廷でもうんざりするほど耳にする薬だ。
悪いのは役所だけか?
水内に言い渡された判決は、懲役2年6月執行猶予4年(未決勾留日数40日を算入)、罰金50万円であった。罰金がもしも支払えない場合は労役場という場所で働くことになるが、水内にできる作業はきちんと用意されているのだろうか。
医療券を発行する立場である役所が、不正利用に気づけないはずがない。さらに言えば、医師や薬剤師も不審に思えば積極的に役所と連絡を取り合うべきだ。
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