- 大阪地方裁判所:第7刑事部合議係
- 罪名:準強制性交等未遂
(幇助犯については上の記事に分けています。)

間一髪の逮捕劇
2020年9月6日午後7時51分までの間、西宮市のアルバイト、亀山泰誠(24)と大阪市北区の無職、喜々津晃(51)、西脇市の無職、西垣宏眞(35)は共謀の上、喜々津の営む飲食店である「創作料理ききつ」にてA(34)に睡眠導入剤であるハルシオンとED治療薬であるレビトラ(喜々津は媚薬と聞かされている)を摂取させた。
目的は集団強姦である。Aさんは亀山の元交際相手なのだが、Aさんの浮気を原因として別れた腹いせに、彼女が輪姦されればいいと考えた。そこで、寝取られなどを募集する掲示板に「2020年9月3日午後10時、元カノを……」と書き込み。元々面識のあった喜々津と西垣との3人でLINEのグループが作成され、亀山は改めて「集団レイプしよう」と呼びかけた。
喜々津の店に、亀山はAさんと連れ立って入店。喜々津と面識がないふりをした西垣が店内では客として座っていた。裏では性玩具と拘束テープが準備されていた。
喜々津は出刃包丁でハルシオンとレビトラを砕き、ハイボールに混入。ジョッキを渡されたAさんはその「オレンジ色のハイボールでアルコールが濃いマンゴー味」の飲み物を4cmほど飲んだ。
その頃、掲示板を見た人が110番通報。警察がAさんを特定し、電話したところ、「創作料理ききつ」にいることが判明。暴行に至る直前に店舗へ立ち入り、犯行は未遂に終わった。
Aさんは前述の飲み物について供述している間も強い睡魔に襲われていて、尿からはハルシオンが検出された。精神的にショックを受けたため、今もカウンセリングを受けている。犯行当日は被害者の誕生日であった。
復讐を企てた亀山
店内ではかなりドキドキしていたという亀山は、Aさんが酒を飲んでいるときに一番緊張したという。検察官に「3人にレイプされたとしてどう思うか?」と問われた彼は、「裏切られて怖い思いをしたと思う」と冷静に振り返った。
寝取られ掲示板には犯行を企ててからたどり着いた。犯行に着手してからは自首を考えたといい、「警察が来てよかった」と語った。当初より集団レイプに参加する意思は無く、「やられてしまえばいい」と考えていた。
犯行当時は就職活動を終えて内定を得ており、新卒入社したのだが実名報道により1年目で懲戒解雇された。
キーパーソン喜々津
犯行1週間前に亀山と連絡を取り始めた喜々津は、寝取られ掲示板で1年前に知り合った幇助犯からハルシオンを入手した。(詳細はリンクの記事へ)
同じ掲示板で2年前に知り合ったのが西垣である。
睡眠導入剤は酒に混入させることはおろか、自分で服用したこともなかった。包丁で錠剤を刻んで酒に入れたところ、欠片が浮いてきたためザルで濾して捨てた。
Aさんが酒を口にした後、亀山は他の人を迎えに店外へ出たと述べており、事実だとすればこの集団レイプにはさらに多くの男が参加する計画だったということになる。
弁護人に今回の事件を振り返るよう言われると、「今回の事件は薬を使用して複数人で乱暴するという悪質で最低な行為だと思う」と述懐した。大変そのとおりである。
自分の役割は薬を用意すること、共犯者を探すこと、場所を提供することであり、犯行に及んでも亀山がなんとかしてくれると思っていたという。(「なんとかしてくれる」の具体的な内容は弁護人が質問しなかったため不明)もし暴行に着手していたら、罪の意識を感じながらも興奮していただろうと語った。
事件後は妻と離婚し、10年以上切り盛りした店は明け渡した。しばらくは知り合いの店で料理人をしていたが、飲食業界に本件がバレてしまい、30年ものキャリアを捨てて辞めざるをえなくなった。現在は勤務時間が10~19時の建設業に従事している。
検察官とのやり取りで「集団レイプには亀山が許したら加わるつもりだった」という趣旨の発言があったため、「Aさんは亀山のモノなのか」との追及があり、「薬を入れるという実行行為に及んだのはあなたですよ」と検察官は激しく非難した。喜々津は犯行の理由を「単純に興奮したかったから」と弁解。今後どのように償うかについては考えていないという。
裁判所からは前述した他の参加者について質問があった。喜々津によると、亀山は当日、別のサイトでさらに2人加えようとしていた。 喜々津は以前より乱交パーティーに参加していたが、本件はまったく質が違うとの指摘に「わかっていたが、眠剤プレイの経験がなく、興味と欲望で手を出した」と答えた。また、「包丁という料理人にとって魂のような仕事道具で眠剤を砕くことに、プライドは邪魔しなかったのか」との問いには「興味と興奮で抵抗はなかった」と無碍な行動であったと明らかになった。
プライドについての質問は独特である。20年度の大阪地裁第7刑事部部総括判事は私が出会った中でもっとも尊敬できる裁判官だ。被告人の反省を促し、時には記録を止めて被害者遺族と直接話をさせ、判決はいつも大声で叫ぶ。人を裁くことの重みについては私のような者でも麻痺してしまうのだが、この方の公判への姿勢はそれを思い出させてくれる。
乱交パーティーに参加した当日だった西垣
西垣はこれまで3回、乱交パーティー(女性1人に男性複数人)に参加。参加費用は1回に1万円だった。本件については怖気づいていた上に、前日の夜6時から翌朝7時まで乱交パーティーに参加していたため、体調が悪かった。自身も睡眠導入剤であるベルソムラ2錠とED治療薬のレビトラを持ってきて喜々津に渡したが、参加するつもりはなかった。(そもそもベルソムラでは昏睡状態とまでは持ち込めないだろう)
数年前から勃起不全のためレビトラを飲んでいたが、この日は飲んでいなかった。ただ、見るだけなら犯行に加担したのがバレない、と興味本位で店に残った。
弁護人は「乱交自体が女性を性欲の捌け口として見ているのでは」と質問。西垣は「そう思うが、人として見ていないわけではない」と答えた。介護福祉士の職は懲戒解雇となったが、同じ職場の調理場で日雇い労働をしているという。
傍聴席の母親
検察側は、周到な計画に基づく犯行で卑劣極まりない。店の休業日を利用し、西垣が一般客を装って被害者に怪しまれないようにしたもので、実際に睡眠導入剤を摂取させ、結果発生の可能性は極めて高かった。被害者の人格を完全に無視したもので、警察官の臨場が遅れていたら既遂になっていたのは明らか。歪んだ欲望に従ったものでその意思決定は強く批判されるべき。厳重な処罰が必要とし、被告人それぞれに懲役5年を求刑した。
亀山の弁護人は、被害者が示談金50万円を受け取ったこと(ただし宥恕は無い。つまり許したという意味ではない)、新卒入社したが退職して社会的制裁を受けたこと、両親の監督が得られることから執行猶予を求めた。
喜々津の弁護人は、睡眠導入剤をあまり溶かせず、Aさんが警察署まで歩けたことからも完全な抗拒不能に無かったとした。100万円の賠償金を支払っており、実名報道で飲食業に就けなくなったことから、執行猶予を求めた。
西垣の弁護人は、主体的でないため犯情が悪くなく、関与の程度が低いとして寛大な処分を求めた。
最終陳述にて、亀山は「犯罪行為は減ることが無いと思うので、今後は犯罪を防ぐ活動をしたい」、喜々津は「弁護士と話して、できることをやっていきたい」、西垣は「自分や被害者の関係者に本当に申し訳ないことをした」とそれぞれ述べた。
判決は、亀山と喜々津に懲役2年6月、西垣に懲役2年2月と、いずれも実刑に処された。
2人には未遂のため減軽を(刑法43条)、西垣にはこれに加えて酌量減軽を行ったため4ヶ月の差が生まれている。
理由として、3人は互いに準備行為を行い危険性が高かったとし、卑劣で、被害者の宥恕もなく、悪質であると全体について評価した。個々人に関してはまず、亀山は前科が無いものの動機が正当化できないとし、喜々津については犯行に不可欠な役割を果たしたこと、西垣は薬の提供と参加のみであるが大きく酌めないことが理由に挙げられた。
判決が読み上げられた瞬間、私の横に座っていた亀山の母親が身を震わせた。執行猶予が明らかにつくような場合でも、弁護士のアドバイスで着替えなどを持ってくることが多いのだが、お母さんが持ってきていた大きめのバッグは役割を果たすこととなってしまった。
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