ミシュラン1つ星料理店の店主が犯した性的暴行(榎本正哉)(準強制性交等、詐欺)

詐欺
  • 大阪地方裁判所:第6刑事部合議係
  • 罪名:準強制性交等、詐欺

 大阪市浪速区のミシュラン一つ星料理店「榎本」。カウンター席が6席あるのみという小さな名店が全国に報じられたのは、2022年9月のことでした。この事件については東スポで解説しています。

ミシュラン1つ星料理人の昏睡レイプ公判 法廷ライターが指摘「氷山の一角」 | 東スポWEB
昨年12月と今年2月、女性客に睡眠剤を飲ませて抗拒不能にさせ、性的暴行を加えたとして、準強制性...
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表向きは酒自体を提供していなかった

 2021年12月、大阪市浪速区の日本料理店「榎本」にて店主の榎本正哉(47)が酒に睡眠導入剤を混入させて女性客Aさんに提供した。抵抗できない状態になったAさんと、榎本は口腔性交と性交におよんだ。3ヶ月後の22年2月にはBさんにも同様の手口で性的暴行を加えた。
 鑑定の結果、Aさんの尿からは睡眠導入剤であるゾルピデムとトリアゾラムの成分が検出され、実際に榎本の自宅マンションからはトリアゾラムなどが押収された。捜査の過程では、21年9月1日~30日の間に新型コロナウイルス感染症に伴う時短営業の補助金を不正受給していたことも発覚し、詐欺罪での追起訴もなされた。この補助金を受けるには、酒類の提供も自粛しなければならない。
 黒いスエット姿で初公判に現れた榎本は、「間違いございません」と起訴内容を認めたのだが、捜査が難航した影響で、結審まではその日から5ヶ月弱を要した。なお、事件の詳しい日時や被害者の年齢は伏せて審理された。

住宅街にひっそりと佇む店構え
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「覚えていません」

 睡眠導入剤を酒に入れたのは間違いないが、どの酒やコップに入れたのかはAさん事件、Bさん事件共に覚えていないというのが榎本の主張だ。それどころか、犯行自体も詳しく覚えていないという。客から勧められて自らも酒を飲んでいたからという弁解だった。
 榎本は自分の店を持つにあたり多額の借り入れをしていて、家族のこともあって疲れているのに眠れず、医師から睡眠導入剤を処方されていた。薬は常備薬も含めてすべて店へ持ってきていたという。店で過ごす時間の方が長いからという理由だった。
 起訴まで持ち込まれたのは2人だけだが、被害者はもっと多いのだろう。捜査機関は余罪を探ったが、裁判所は「迅速な審理にご協力をお願いします」と要請した。榎本の身柄拘束が初公判の時点でかなり長期に及んでいたからだ。それでも検察官は、法廷で余罪を追及した。
検察官「酒に睡眠薬を混ぜて提供すると普通は考えもしないと思うんですが、考えついたのはどうしてですか?」
榎本「当時の記憶が無くわかりません」
検察官「大ごとですよね。普通はしませんよね。発覚したら大変だと思うんですが自覚してなかったのですか?」
榎本「正直その時のことは覚えていません」
検察官「料理はきちんと作って提供していたんですよね」
榎本「はい。作った後にお酒を飲んでいたので」
検察官「なぜこのようなことをしたのかが大切ですが、わからないんですか?」
榎本「自分の性欲を満たすためです」
検察官「そりゃそうでしょうけど」
 榎本は弁護人からの質問に、「被害者の方々におかれましては、なにも悪いことをしていないのに自分の身勝手な行動のため、恐怖させて一生残るような傷を負わせてしまった」と反省の弁を述べている。ところが、犯行の記憶が無いのでは自分の行動を振り返られず、同じことを繰り返す懸念が残る。
検察官「バレるとは思わなかったんですか」
榎本「今となってはなんでそんなことしたのかと」
検察官「当時のことです」
榎本「正直覚えていません」
検察官「酒と一緒に睡眠薬を飲むと効き目が強くなるとは思わなかったのですか」
榎本「自分が飲んでいるので、私自身わかっていました」
検察官「酒と睡眠薬を一緒に、大事なお客さんに飲ませて体に悪い影響があるとは考えていなかったのですか」
榎本「ほんとに考えていなかったです」
検察官「客を裏切って性行為に及んだことに罪悪感は無かったのですか」
榎本「今はあります」
検察官「今じゃなくて、まさにその当時は?」
榎本「考えてなかったとしか……」
検察官「今回の2件以外に同じようなことをしていないんですか」
榎本「以前取り調べでお答えした通りです」
検察官「あるのかないのか」
榎本「こういうことはしてません」
検察官「やり方を変えてやったことは?」
榎本「はい」
検察官「1回ですか、2回か3回か、あるいは5回以上?」
榎本「2回か3回か、5回以上かも……」(声がどんどん小さくなり、聞き取りづらい)
 AさんもBさんも、タクシーを呼んで帰宅させたことは榎本自身が覚えている。しかも榎本はBさんのスマートフォンを勝手に操作し、LINEを交換してあたかも同意があったかのようなメッセージを送信している。偽装工作までしていて犯行を覚えていないと言い張る榎本の反省の言葉が白々しい。
 裁判官も榎本の「記憶が無い」という主張は怪しんだ。
裁判官「令和3年12月の事件(※Aさん事件)では被害者と同伴していたお客さんにも睡眠薬を入れた酒を提供しているようですが」
榎本「はい」
裁判官「理由はありますか?」
榎本「3名で一緒に飲んだからです」
裁判官「なぜそうなるのかわからないのですけど」
榎本「食事を提供し終わってから、入れてしまいました」
裁判官「犯行の発覚を防ぐなどの目的があったのではないですか」
榎本「そういう目的ではなくて、同じ容器に入っていたのでお飲みになりました」

不正受給は一ヶ月分だけでない

 大阪府は時短営業への協力金として、榎本に合計1000万円の補助金を出している。営業を午後8時までとし、酒類の提供も自粛するのが条件だが、榎本はどちらも守っていなかった。午後6時の開店から日付が変わるまで営業を続け、酒も提供していた。申請は榎本の友人が行っていた。
弁護人「受給するための条件は知っていましたか?」
榎本「友人から聞いていました」
弁護人「ご友人は、条件を守っていないことを知っていたのですか」
榎本「興味無かったと思います」
 榎本の友人は、条件を守っていないと知ってメッセージで警告している。罪悪感を問われても「ウソをついている気は無かった」と無責任な発言を繰り返す榎本に、検察官は業を煮やした。
検察官「(給付金詐欺について)報道されていたことは知っていましたか?」
榎本「はい」
検察官「悪いこととわかっていたのでは?」
榎本「リスクが無いものと思ってました」
検察官「悪いことをしている意識があったんじゃないですか」
榎本「経営者としての自覚と資質に欠けていました。条件を詳しく知っていればこのような結果にはならなかったと」
検察官「あなたがしたことでしょ?」
 榎本には、ローンの返済や離婚した妻子への養育費などを引いても、月に50~60万円、多くて100万円の収入があった。「詐欺までする必要は無かったのでは?」との弁護人の問いに、返済や持病が不安で申請してしまったと榎本は語った。予約客のみだから感染リスクが無いとも思っていたという。まったく意味がわからない。
 AさんとBさん、その他2件の示談金に加え、起訴分の補助金の返還額120万円、府への違約金16万5240円を合わせるだけでも、榎本は約1500万円を支払っている。元妻と子供が住んでいたマンションを売却したが、起訴されていない補助金の返還や、開業の援助と示談金の肩代わりまでした兄への弁済を考えると、到底金が足りない。現在、養育費の減額交渉が続いている。
 妻子は住む家を追われ、働いていた従業員は店の処分を手伝った。「こんなことを犯してしまった私を、見捨てなかった方たちに感謝しています」という榎本の言葉だけは、真摯な気持ちだろう。

外食に行けなくなった被害者

 代理人の弁護士によって、被害者の意見陳述が行われた。
「一生忘れることのできない日から一年経ちました。楽しい酒や食事が好きで、新しい店にワクワクし、新たな交遊も楽しみにしていたのに、事件によってそんな当たり前の日々が壊れました。外食ができなくなり、出された食事を味わうこともできなくなり、男性とすれ違ったり夜道を歩くこともできなくなりました。仕事にも行けず家に引きこもっていました。当日はお酒を飲むつもりは無かったのに、しつこくすすめられました。気持ち悪いです。店ならば、最高の料理を提供するのが仕事なのに、眠らせてわいせつな行為をするなど想像できません。人としてありえません。厳しい処罰を望みます。反省する気持ちがあるなら、負わせた傷を自覚してください」(※一部を割愛しています)

料理人への未練

 検察側は、店主という立場を利用した犯行を厳しく非難し、準強制性交等罪については卑劣かつ巧妙で被害者の尊厳を踏みにじったとして、懲役10年を求刑した。
 弁護側は性犯罪について、従業員にいつ見つかるかわからない状態であったと指摘し、計画性があるとは断定できないと主張した。兄が今後の監督を約束し、被害弁償がなされていることから寛大な判決を求めた。
 最後に榎本は、「今回の事件に関しまして、本当に申し訳ございませんでした。二度とこのようなことは致しません」と陳述した。
 公判の中で、今後料理人として生きていくのかを問われて、「今はまったくありません。ですが、この仕事しかしてきていないので、許されるのであればまた料理の道に携わりたいです」と答えていた榎本。負わせた傷を自覚していれば出てこない本音だ。

 判決は、懲役6年6月だった。

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