トランスジェンダー当事者による盗撮(迷惑防止条例違反)

建造物侵入
  • 大阪地方裁判所:第1刑事部1係
  • 罪名:建造物侵入、迷惑防止条例違反
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カラオケ店で

 2020年7月25日午後1時ごろ、大阪府吹田市にあるカラオケ店の女子トイレでA(27)がスマートフォンを個室の上から差し入れ、中にいる女性を盗撮した。気づいた被害者が「何してるんですか!」と声を上げたところ、Aは逃走。被害届を受理した警察が捜査を開始し、Aを特定して家宅捜索に入ったが、データは発見されなかった。

 公判が始まる前、私は法廷を間違えたのかと思った。Aの髪は金色の毛先が肩下20cmほどまで伸びていて、見た目は女性だった。しかし、「間違いありません」と起訴内容を認める声は低く、男性のものだった。Aは体が男性で心が女性という性同一性障害を抱えていて、トランスジェンダー外来に通院しているとのことだった。
 盗撮の前科は2犯ある。14年に懲役1年保護観察付き執行猶予3年、20年3月には罰金50万円が課せられていて、いずれも盗撮による。ただ、盗撮はすべて、性的な目的でないとAは主張した。主治医は窃視障害の診断を出している。

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不明な動機

 事件当日、Aは友人とカラオケに訪れていた。用を足すために女子トイレへ行き、部屋に戻る途中で好みのタイプの女性とすれ違った。衝動に駆られたAは女子トイレへ引き返し、今回の事件を起こした。
弁護人「普段から女子トイレを使ってるの?」
A「2年前から多目的トイレを使うようにしてます」
弁護人「ずっとチャンスをうかがってた?」
A「いいえ」
弁護人「じゃあ動機はなんだろう」
A「うまく説明できません。目的があるわけでもなく……衝動で」
 データが残っていないのは、動画モードで撮影しようとして撮影開始のボタンを押し忘れていたからだという。
 Aは謝罪の手紙を出したが、被害者は「気持ち悪い」として受け取りを拒否した。警察に対しては「しっかり処罰してください」と被害感情を訴えている。
A「LGBTの方々にも迷惑をかけました」
弁護人「最近、浴場なんかの問題でね、批判している人がいると思うんだけど、そういう人たちにエサを与えてしまっているのではないの?」
A「そう思います」

 Aには10年ほど交際している男性のパートナーがいる。2年前から同棲している彼は、前科を知ってはいたが、「トランスジェンダーで間違われただけ」とウソをつかれていた。直近の罰金50万円は彼が工面し、一緒に外出する際は多目的トイレか男子トイレに同伴するようにしていた。「次にやったら別れる」と決めていたが、証人として出廷して今後の監督を誓った。

判決

 検察側は、犯行の理由がわからないといっても酌むべき事情は無いとし、前刑からわずか4ヶ月での犯行を強く非難して、懲役1年を求刑した。
 弁護側は、録画に失敗しているため被害者の肢体を見ていないことや、計画性が無いことなどを挙げ、執行猶予を求めた。
 判決は、懲役1年執行猶予4年であった。裁判所はAが安易にこの種の犯行に及ぶ傾向にあると言わざるを得ないとし、社会内での更生を期待するが、執行猶予の期間は前科を踏まえて長期とした。

再犯、そして実刑へ

 22年に入り、Aは再び裁判所に現れた。地下鉄のエスカレーターで女性のスカート内を盗撮したのだ。大阪地裁は懲役5月の実刑判決を下した。
 控訴審で弁護人は、23年には性転換手術を受ける予定であること、男性と同じ房に収容される苦痛は死にも値することなどを主張したが、控訴棄却となった。この記事を書いている現在(23年1月)、おそらくAは懲役1年5月の刑に服している。

 法廷に通っている身でありながら、性的少数者の人々が収監されることで起きる問題に、私は気づかないでいた。刑罰は平等でなければならない。同性と寝食を共にして不必要な苦痛を感じるならば、何らかの配慮は必要だが、他の受刑者から見て不平等に映る事態も避けなければならない。裁判で触れられたように、LGBTの人々をめぐる問題はトイレや浴場などがクローズアップされがちだが、刑事施設にも関心を向ける必要がありそうだ。

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