「望まない妊娠」と言い切れない死体遺棄(吉田絵里佳)

死体損壊・遺棄
  • 大阪地方裁判所:第15刑事部2係
  • 罪名:死体遺棄

 報道は以下の通り。

https://www.mbs.jp/news/kansainews/20220913/GE00045794.shtml

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腐敗の進む赤ちゃんとの2ヶ月弱

 2022年4月19日、大阪市内のホテルにて住所不定無職の吉田絵里佳(28)は独りで赤ちゃんを出産した。動作が無く、産声も上げない赤ちゃんを「死んでいる」と思った彼女は遺体をビニール袋に入れ、紙袋で持ち歩く生活を始める。
 売春で生計を立てていた吉田被告は、週末になるとコインロッカーへ紙袋を預け、平日の間は浪速区のホテルで腐敗していく遺体と共に過ごした。死臭を防ぐビニール袋はどんどん重なっていく。
 同年6月11日(土)午前11時43分ごろ、浪速区日本橋のコインロッカーへ紙袋を入れた吉田被告は、無施錠のままその場を立ち去って売春の客へ会いに向かった。この頃には金銭的に困窮し、「見つかったら見つかったでちゃんと説明しよう」と考えてロッカーの代金を支払わなくなっていた。
 その後、何者かが紙袋を近隣の駐車場に移動させた。同月15日、発見した管理会社の社員が、その「すごい臭いがする」袋を開けると、えい児のようなものが落ちてきた。社員は110番通報し、防犯カメラの映像から吉田被告が浮上して逮捕に至った。

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ほとんど被告人の責任

 初公判では記者席が13席。テレビカメラまで入り、注目の度合いは高かったのだが、あまり公判の内容が報道されているとは言えない。というのも、社会問題となっている「望まない妊娠」の事件とはイメージがかけ離れていたのだ。
 実家の金を使い込んで母親から叱責を受けた吉田被告は、21年4月に実家のある北海道を飛び出し、東京から大阪へと、売春を繰り返してホテルを転々としていた。言うまでも無く私娼は違法である。
弁護人「なぜ妊娠したのか?」
吉田「客が無許可で膣内に射精したからです」
弁護人「なんのために売春を?」
吉田「生活費とホテル代のため」
 売春を仕方なく始めたという吉田被告は、その客と会った21年8月から生理が止まった。今思えばつわりの症状もあった。それでも病院に行かなかったのは、経済的な理由と、妊娠を認めたくないという気持ちに一因がある。「こうのとりのゆりかご」のような支援の存在は知っていたが、相談する方法がわからず、流産してもいいと酒やタバコを続けた。

血まみれのベッド

 司法解剖の結果、赤ちゃんが生後8ヶ月であることは判明したが、全身の腐敗で生産か死産か特定できなかった。そのため、本件は保護責任者遺棄致死でなく死体遺棄のみに留まっているものと考えられる。
 ヘソの緒を自ら引きちぎったという出産で、ホテルの客室は血だらけとなり、清掃員がiPadでその様子を撮影している。
 10回ほどコインロッカーを使用しているが、それでも遺体を置き去りにしなかったのは「罪悪感とバレたくなかったから」。
検察官「腐敗の様子をかわいそうとは思わなかったのか」
吉田「思ったが、自分が殺したと思われそうで警察に行けなかった」
 遺体が発見された後、ロッカーから紙袋が無くなっていて怖くなったが、付近を探したのみだった。「バレたくない」という動機の表れだろう。赤ちゃんは吉田被告から警察を通して自治体によって埋葬された。

公判への疑問

 この裁判で疑問だったのが、被告人への追及にどこか遠慮があったことである。
 売春行為でなく定職に就かなかったのはなぜか。コンドームを使用して避妊していたのか。そもそも、売春防止法違反で起訴されていない(起訴猶予だろうが)。
「逮捕されるまで赤ちゃんを助けようという気持ちは無かった」という取調べでの供述について、弁護人から自省を促される形で「今思えば救急車を呼べばよかったし、こういう生活をしなければよかった」と吉田被告は答えた。
 死体遺棄は死者への冒涜を断罪するためにある。しかし、そもそも本件は望まない妊娠を防ぐこともできたし、適切に対応していれば赤ちゃんは命を落とすことが無かったかもしれない。
 この事件は吉田被告の身勝手な行動に尽きるのではないか。

結果

 検察側は、遺体が高度に腐敗し、2ヶ月弱も放置したことは死者への冒涜であるとした。被告人の無計画さは、事件に至るまでの経緯が酌めるものではないため、懲役1年6月を求刑した。
 対して弁護側は、被告人の意思に反して避妊されなかったこと、完全に遺棄していないことから同種事案と比較して悪質性は低いこと、以上2点を挙げて執行猶予付きの判決を求めた。
 最終陳述で吉田被告は、「亡くなったしまった赤ちゃんに申し訳ありません。毎日供養して、今後の生活を頑張りたいです」と陳謝した。
 判決は、懲役1年6月執行猶予3年だった。
 裁判長が最後に、体を大切にするよう気遣っていたのが印象的だった。

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